愛すべき、藤井。
「ぐだぐだ言ってないで、早く伊藤のこと取り戻したら?」
「……簡単に言ってくれるよなぁ。つーか、取り戻すとか取り戻さねぇとかじゃねぇし」
「あー、手に入れてないもんね」
「分かっかんねぇ、なんで俺避けられてんだよ」
俺は最近、完全に夏乃に避けられている。
朝は迎えに行けば、もう家にはいない。
学校では、話しかければ返事が来る程度で、夏乃から話しかけてくることはない。
放課後も光の速さで教室を出ていく夏乃を、追いかけることも出来ずに見送っている。
そんな日々がもう、2週間。
いい加減、気が狂いそうだ。
「まぁ、遅かれ早かれ来ると思ってたよ俺は」
「はぁ?」
「伊藤が藤井に愛想尽かす日が、さ」
顧問がぎっくり腰で、しばらく自主練メニューのみらしい野球の神田は、教室で無気力に窓の外へと視線を向ける俺の隣で俺の傷をえぐる。
「……理由もなしに突然避けるか?普通」
「理由はあるだろうよ。ただ、その理由を藤井に言ったところで、また鈍さにイラッとするんだろうから、何も言わないで避けてる伊藤はある意味正解だと思う」
「……ダメだ、何言ってんのかサッパリわかんねー」
「だろうね」なんて付け足して、にこやかに微笑む神田をこれほど憎いと思ったことはない。
つまり、全ては俺がアホなせいだって言いてぇんだろ、神田この野郎。
そんなわけあるか!(※あるんです)