愛すべき、藤井。
「俺さ、中3で転校することになーんの心配もしてなかったわけ」
「……うん」
急に始まった藤井の昔話に、私は静かに相討ちを打つ。
「だけど、転校初日にみんなの前で挨拶しろって言われた瞬間、急に頭真っ白になって……めっちゃ噛んで、そしたらなんか、そこから何もかもが不安になってさ」
「うん」
「なのに、席についたら後ろから『ねぇ、藤井』って、俺を呼ぶ声が聞こえて。振り向いたら……夏乃が満面の笑みで『SHR終わったら校内案内してあげるよ』って。俺あん時、柄にもなく泣くかと思うくらい嬉しくて、今でもあん時の夏乃の笑った顔忘れらんねぇの」
藤井に言われて、ぼんやり思い出す。
ちょっと寂しそうな横顔で、ちょっと不安そうな背中で、私の1つ前の席に座った転校生が何だかほっとけなくて。
中3の夏休み明けに転校してきたことを感じさせないくらい、卒業式では一緒に泣けたらいいなって……仲良くなりたいなって、思ったんだ。