愛すべき、藤井。
「私ね、藤井がパン屋じゃなくてもお嫁に行きたいって思うくらいには、藤井が好きだよ」
ニッと笑って、たまに藤井がするみたいに舌をベッと出してみた。
そんな私に、藤井は今度こそ目ん玉落ちちゃうよ!ってくらい目を見開いて、次の瞬間には耳まで真っ赤に染まった。
「ばっかじゃねぇの」
手の甲で口元を覆った藤井が、恥ずかしそうに私から視線を逸らす。
こんな藤井、見たことない。
変わらないことも多いけど、その中で少しずつ私たちは新しい関係を築こうとしてるんだと思う。
まだまだ私が知らない藤井がいて、反対にまだまだ藤井が知らない私がいる。
それをお互い見つけあって、理解し合って、寄り添い合って、
その積み重ねが、もっと『好き』を運んできてくれたら最高だと思わない?
「……じゃあさ」
「ん?」
「いい加減、下の名前で呼べば?」
「……なんで?藤井はずっと藤井だよ」
「……夏乃がいつか藤井になったら、ややこしくね?どっちも藤井だろ」
「〜〜〜!!」
そう来たか。
……もう、降参だよ藤井。
私の心臓、なんなら内蔵全部、鷲掴みにされた気分だよ。