愛すべき、藤井。
「あー、早起きか。それはしんどい」

「また連れてってやるから、ふんわり工房のクロワッサンで我慢しとけ」

「……そうだね、美味しかったし。今度はちゃんとお金払って買う」

「俺と行けばタダじゃん」

「違うじゃん、ちゃんとお金払って食べたいの」

「謎。お前のそういう所、謎」


うるさいよ、藤井。
それくらい美味しかったってことでしょうが。


私から言わせてもらえば、藤井の全てが謎だし。




大してカッコイイわけじゃないくせに、人を惹き付ける何かがあって、常に藤井の周りには人がいることとか、

馬鹿なくせに運動神経だけは良くて、走ってる姿がやけにカッコよく見えちゃうとことか、


散々な扱い受けて、散々な暴言吐かれる毎日なのに、嫌気がさすどころが、そんな日々が愛しいとか。


謎で仕方ないよ、私は。


───キキッ


「おい!急ブレーキかけんな、こら」

「着きましたよ、坊ちゃん」


ワンワンと吠える柴犬のまつりが、今日も元気に『おかえり』と言っている。


「やめろ、その言い方」

「じゃあ何?藤井様?藤井様なの?」

「あーはいはい、やかましいわ」


「シュワッチ」とかわけ分かんない効果音を付けて、藤井がチャリから飛び降りるから、急に軽くなったチャリはガシャンと音を立てる。


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