愛すべき、藤井。
「夏乃」
タイミング良いのか、悪いのか。
見失ったと思っていた藤井が、チャリに乗って私と立花くんのそばまでやって来た。
「なーんだ、まだいたのかよ、藤井」
「なーんだって何だよ」
「いや?素直に残念だな〜と思って」
全然残念そうじゃない顔で、なぜか残念だと笑う立花くんは私の手首を掴んだまま。
そんな立花くんに掴まれたままの私の手首に気づいた藤井が「何してんの?」とキョトン顔するから、私が聞きたいよ、と軽いため息すら漏れる。
「伊藤に送ってやるっつったら断られたとこ」
「だって、歩いて30分くらいだし」
「女がこの時間に30分も暗い道 1人で歩くわけ?」
「女つっても、私だよ?藤井に言わせりゃ女じゃないらしいし」
「ね?」と藤井に嫌味たっぷりな質問を繰り出して首を傾げれば、少しだけ藤井がムッとした。
あれ、鈍感藤井でも今の嫌味は伝わった?藤井のことだからきっと気づかないと思ったのに、軽率だった。
「ま、とりあえずさ!私 大丈夫だから!」
「ったく、じゃあ連絡先教えて」
「あー、いいよ。LINEでいい?」
「おう」
せっかく中学校卒業ぶりに会ったんだもんね。断る理由もない。
QRコードを読み取って、友達に追加した私の友達一覧に【立花 祐也《たちばな ゆうや》】の文字。
「あ、出た出た」
「俺のにも来た」
私と立花くんが、お互いの携帯にお互いの連絡先が入ったのを確認した頃には、もうみんなの姿はなくなっていた。