愛すべき、藤井。
ただ1人、
「おい、まだかよ」
藤井を除いては。
「藤井、まだいたんだ」
別に喧嘩を売ってるわけじゃなくて、本当に本当にビックリした。藤井のことだから、てっきりもう帰ったかと思ってたのに。
「早く乗れ」
「へ?送ってくれんの?」
「は?普通一緒に帰るだろ」
……藤井の中での普通ってなんだろう。
私は藤井の『当たり前』の世界にいるのかな?
そこにいて当たり前、一緒に帰って当たり前、バカやって笑って、ボケて突っ込んで、そんな私との毎日が、藤井にとっては当たり前なのかな?
藤井の中で『伊藤 夏乃』は無意識的に当たり前になってるのかな。
もしそうだとしたら、
『当たり前』と『特別』は何だかんだやけにかけ離れてる気がして、
「……普通って何だよ、藤井」
「はぁ?いいから早く乗れよ、帰んぞ」
「……んーん、歩いて帰るからいい」
「は?」
いつまで経っても縮まらない藤井との距離に、早くも絶望すら感じてきたよ。