愛すべき、藤井。


ただ1人、


「おい、まだかよ」


藤井を除いては。


「藤井、まだいたんだ」


別に喧嘩を売ってるわけじゃなくて、本当に本当にビックリした。藤井のことだから、てっきりもう帰ったかと思ってたのに。


「早く乗れ」

「へ?送ってくれんの?」

「は?普通一緒に帰るだろ」


……藤井の中での普通ってなんだろう。
私は藤井の『当たり前』の世界にいるのかな?


そこにいて当たり前、一緒に帰って当たり前、バカやって笑って、ボケて突っ込んで、そんな私との毎日が、藤井にとっては当たり前なのかな?


藤井の中で『伊藤 夏乃』は無意識的に当たり前になってるのかな。


もしそうだとしたら、

『当たり前』と『特別』は何だかんだやけにかけ離れてる気がして、


「……普通って何だよ、藤井」

「はぁ?いいから早く乗れよ、帰んぞ」

「……んーん、歩いて帰るからいい」

「は?」



いつまで経っても縮まらない藤井との距離に、早くも絶望すら感じてきたよ。
< 51 / 280 >

この作品をシェア

pagetop