愛すべき、藤井。
「歩きたい気分だから、藤井 チャリで先帰りなよ」
「…………」
無言の藤井は、少なからず私の態度に異変を感じているんだと思う。
「立花くんも、また連絡する!今日はありがとう。またね」
「……分かったよ、大人しく帰る。またな伊藤」
軽く手を振る私に、片手を上げた立花くんは私とは反対方向へと歩き出した。きっと立花くんは電車だし、わざわざ送ってもらうのは本当に気が引けた。
藤井と3人ならまだしも、2人で何を話したら良いかも分かんなかったし。
気持ちだけ受け取っとくよ、ありがとう。
立花くんの後ろ姿にありがとうの念を送り付け、私も帰ろうと方向転換すれば、マックス不機嫌の藤井と目が合って一瞬目を見開いた。
「俺も歩く」
「は?」
「歩きたい気分だから、俺も歩く」
「……あっそ」
分かりやすい嘘と、分かりやすい程の機嫌の悪さにどうしようもない後悔が襲ってくる。
あーあ、変な意地張らずにチャリに乗って帰ればよかったかなーって。
そしたら、無駄に藤井の機嫌が悪くなることもなかっただろうし、何より別に歩きたい気分じゃない私は早く家について寝れただろう。
おまけに、この機嫌が悪い藤井と30分も何を話しながら帰ればいいんだろうと、この短時間にない頭をフルで使って考えた。