愛すべき、藤井。
***
「藤井」
いつになく、ドキドキしている私の心臓。
駆け寄る藤井の席。
私の声に藤井が小さく揺れて、少しだけ視線をあげて私を見た。そんな藤井の顔は、やっぱり引きつってて、挙動不審。
「なんで、今朝……」
「わり、夏乃。俺、次の授業の準備あるから急いでんだ!後で聞く……!」
「えっ……」
私が話し始めたのとほぼ同じタイミングで、勢いよく立ち上がった藤井は早口に告げた。
私の横を通り過ぎた藤井は、甘酸っぱい柑橘系の匂いだけを残して、ジャージを片手に早足で教室を出ていってしまった。
……あれ、もしかして本気で避けられてる?
確かに藤井は体育係で、いつも体育の授業は準備から片付けまで頑張ってることを私は知っている。
が、しかし。
まだ英語の授業終わったばっかだし。
男子なんか普段教室でパンツになってジャージに着替えてから向かってるじゃんか。
その証拠に、
「あれ?藤井もう行った?」
「うん、準備があるからって……たった今」
「そんな急いで行くことないのに、藤井と何かあったの?」
突然、後ろからやって来た神田くんに声をかけられて力なく笑う私。