愛すべき、藤井。



学校にいる間は基本マナーモードだから、たまに家に帰ってからも解除し忘れて、うめからの着信に気づかなかったりするんだよね〜。


んで、かなり怒られんの。
大した用じゃないくせにさ。


またうめからかな〜?なんて取り出したスマホに表示される名前を見て、私は目を見開いた。


【藤井 絢斗】



「まじかよ」


思わず漏れた声、震える手、加速する心臓のドキドキ。


今日1日、散々私のこと避けたくせに。放課後だって私のこと置いて帰ったくせに。

今更、電話なんて掛けてきて何のつもりさ。自分勝手にも程があるよ藤井。


そう思う気持ちとは裏腹に、私の指はスマホの応答ボタンを静かにスライドしていて、藤井からの着信を嬉しいと思っている私がいるのも事実だ。


「もしもし……」

『……夏乃!ごめん!俺、』


耳に押し当てたスマホから、焦ったような藤井の大声が聞こえて、思わず顔を顰める。


「うん?」

『や、あーっと……お前今どこ?』

「どこって、まだ学校出て一つ目の角曲がったところだよ。誰かさん先に帰っちゃったし?」

『……っ、わりぃ!待ってろ、すぐ行く』

「は?え……ちょ!」


───ツーツーツー


いつもの藤井じゃない。
電話の相手は誰だったんだろう、そう思うくらい藤井が藤井じゃなくて……。


言おう。
藤井が来たら『友達でいい』って。
『今まで通りがいい』って。


こんなギクシャクした私たち、変だよ藤井。

< 73 / 280 >

この作品をシェア

pagetop