愛すべき、藤井。
学校にいる間は基本マナーモードだから、たまに家に帰ってからも解除し忘れて、うめからの着信に気づかなかったりするんだよね〜。
んで、かなり怒られんの。
大した用じゃないくせにさ。
またうめからかな〜?なんて取り出したスマホに表示される名前を見て、私は目を見開いた。
【藤井 絢斗】
「まじかよ」
思わず漏れた声、震える手、加速する心臓のドキドキ。
今日1日、散々私のこと避けたくせに。放課後だって私のこと置いて帰ったくせに。
今更、電話なんて掛けてきて何のつもりさ。自分勝手にも程があるよ藤井。
そう思う気持ちとは裏腹に、私の指はスマホの応答ボタンを静かにスライドしていて、藤井からの着信を嬉しいと思っている私がいるのも事実だ。
「もしもし……」
『……夏乃!ごめん!俺、』
耳に押し当てたスマホから、焦ったような藤井の大声が聞こえて、思わず顔を顰める。
「うん?」
『や、あーっと……お前今どこ?』
「どこって、まだ学校出て一つ目の角曲がったところだよ。誰かさん先に帰っちゃったし?」
『……っ、わりぃ!待ってろ、すぐ行く』
「は?え……ちょ!」
───ツーツーツー
いつもの藤井じゃない。
電話の相手は誰だったんだろう、そう思うくらい藤井が藤井じゃなくて……。
言おう。
藤井が来たら『友達でいい』って。
『今まで通りがいい』って。
こんなギクシャクした私たち、変だよ藤井。