愛すべき、藤井。
結局、家に着いても俺の頭の中から夏乃が消えることはなくて、ベッドに転がりながら、夏乃との今までを思い出してた。
中学3年生の夏休み明け、親の離婚で隣町の中学から夏乃が通ってた中学に転校する事になった俺は正直、不安なんて一つも無かった。
友達を作るのは昔から得意だな方だし、自分から声をかけることも苦手じゃねぇ。
そんな遠くから転校してきたわけじゃねぇし、言葉に違和感を感じることもないだろう。
転校なんて、超余裕!楽勝だ。
そんな気持ちで新しい学校へ向かった登校初日。
俺はまさかのド緊張を繰り出して、自己紹介もまともに出来ず、カッミカミ。
誰1人俺を知らないし、俺も誰1人知ってる人がいない……そんな状況があんなにも緊張するものだとは思ってなかった。
席に座るように先生から指示を受けて朝のSHRが終わるまでの時間は、これからどうやって生活しようってことで頭の中はいっぱいで、
柄にもなく少し不安になり始めてた頃、
『ねぇ、藤井』
俺は、後ろの席から俺の背中をツンツンと突っつく誰かに呼ばれて、無意識的に振り向いた。
それが、中学3年生だった伊藤 夏乃。
『ねぇ、藤井!SHR終わったら校内案内してあげるよ』
出会って初っ端呼び捨てかよって、今思えばかなり夏乃らしいけど。
『……おう、頼むわ』
『おっしゃ、任せとけ藤井』
あん時の夏乃の笑顔に、俺の緊張とか不安がどんだけ和らいだか、夏乃は知らねぇんだろうな。