愛すべき、藤井。



「ゲッ」


突然、夏乃のスマホが震えて、すぐに着信だと気づいた。嫌そうに顔をしかめる夏乃に誰からの電話なのか気になりつつも、なぜかそれを悟られないように俺は団扇でパタパタとシャツの中を仰ぐ。


「まーただよ!立花くん……夏休み入ってから毎日のようにかかってくんの、うんざり」


俺にスマホの画面を見せながら、本当にうんざりしているらしい夏乃は指で画面をスライドさせた。


「……へぇ、立花ねぇ」

「もしもーし、今日は何の用?」


なぜか立花と聞いてザワつく俺の胸。
毎日のように夏乃に電話って、アイツ本当に物好きかよ。


「だから、補習だっつーの!遊びません!合コン?嫌だよ、あの時は訳ありで参加したの!は?ちょ、だめ!言わない約束でしょ…!無理、本当にタチ悪い」


チラッと俺を確認した夏乃が、少しだけ頬を赤く染めて電話越しの立花に何やら怒ってて、夏乃と立花の電話に聞き耳立ててる自分に気づく。


ん?いや、これは聞き耳立ててるわけじゃねぇ!!

聞こえてくるんだから仕方ねぇだろ。


聞こうとしてるんじゃねぇ。
聞こえてくるんだ。


不可抗力、これは不可抗力。



にしても『あの時』ってのは俺が参加した夏休み前の合コンのことか?


だとしたら『訳あり』ってのは?何のことだ?
気になる、気になるけど……俺が聞いて、夏乃は素直に教えてくれんのか?

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