愛すべき、藤井。
「なに?何か怒ってる?」
「怒ってねぇけど」
「……けど、なによ?」
いつもみたいに言い返してくるわけじゃなく、どこか不安そうに俺の顔を覗き込んでくる夏乃に、なぜか今度は罪悪感でいっぱいになって、
「いや、本当に怒ってんじゃなくて!ただ、男心ってやつをお前は分かってなさすぎる!中途半端な否定は立花の気持ちを煽るだけだろ」
「……煽るとか煽らないとかよく分かんないけど、じゃあ1回遊びに行ったら、落ち着くかな?」
「は?」
予想外。
夏乃のことだから「だっる!」とか言ってちゃんと断るとか言い出すと思ったのに。
『1回遊びに行ったら、落ち着くかな?』って。
お前それ、ダメだろ。
完全に喰われる、喰われるやつだ。
顔良し、頭良し、スタイル良しの立花は遊びまくってんだからな??
お前みたいな何も知らないのがノコノコ遊びに行ったら完全に……あーなしなし。考えるのやめた。
「アホだろ、お前」
「待って、藤井に言われたくないんだけど」
「席つけー、補習再開すっぞー」
休憩時間の終わりを知らせる先生の声に、俺と夏乃の会話は終止符を打った。
先生がプリントの問3がどーたらと解説を始める中、
俺は夏の蒸し暑さのせいか、ボーッと働かない頭で隣でプリントに視線を落とす夏乃を見ていた。