愛すべき、藤井。

「なに?何か怒ってる?」

「怒ってねぇけど」

「……けど、なによ?」


いつもみたいに言い返してくるわけじゃなく、どこか不安そうに俺の顔を覗き込んでくる夏乃に、なぜか今度は罪悪感でいっぱいになって、


「いや、本当に怒ってんじゃなくて!ただ、男心ってやつをお前は分かってなさすぎる!中途半端な否定は立花の気持ちを煽るだけだろ」

「……煽るとか煽らないとかよく分かんないけど、じゃあ1回遊びに行ったら、落ち着くかな?」

「は?」


予想外。

夏乃のことだから「だっる!」とか言ってちゃんと断るとか言い出すと思ったのに。


『1回遊びに行ったら、落ち着くかな?』って。


お前それ、ダメだろ。
完全に喰われる、喰われるやつだ。

顔良し、頭良し、スタイル良しの立花は遊びまくってんだからな??


お前みたいな何も知らないのがノコノコ遊びに行ったら完全に……あーなしなし。考えるのやめた。



「アホだろ、お前」

「待って、藤井に言われたくないんだけど」

「席つけー、補習再開すっぞー」


休憩時間の終わりを知らせる先生の声に、俺と夏乃の会話は終止符を打った。


先生がプリントの問3がどーたらと解説を始める中、

俺は夏の蒸し暑さのせいか、ボーッと働かない頭で隣でプリントに視線を落とす夏乃を見ていた。

< 86 / 280 >

この作品をシェア

pagetop