愛すべき、藤井。



***


「それでね、さっき先生と文化祭の出しものの話をしててさ」

「へー」

「おい、棒読みやめろよ藤井」

「だって興味ねぇもん」

「それが藤井は聞いといた方がいいよ!」

「は?何でだよ」



補習終わりのチャリの上、珍しく俺がこぎの今日。暑さでおかしくなりそうな頭を必死に回転させて夏乃の話に耳を傾ける。


「文化祭、うちのクラスはシンデレラの劇をやろうと思ってるらしくてさ」

「は?」

「でも、ただのシンデレラじゃつまらないから、キャストでギャグ感を出すって話でさ」

「おい、待て。嫌な予感しかしねぇからまじで待て」



「発表します!」なんて楽しそうに俺のチャリの後ろで高らかに宣言した夏乃の手は、俺の腰に回ってて、


こないだ、どこに掴まればいいか迷ってた夏乃の手を自分の腰へと誘導した記憶がブワッと脳裏に浮かぶ。


……今思えば、あれってアリだったのか?


普通の男女なら、もしかしてドキッとするポイントだったりすんのか?


夏乃も俺に少しはドキッとした可能性もなくもない?いや、でも俺らは普通の男女じゃねぇし。


ん?待てよ、夏乃は俺が好きなんだっけ?
……ってことは、


「藤井がシンデレラ役に抜擢されましたー!」

「…………はぁ?????」

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