愛すべき、藤井。




***


まだ8月も半ばを過ぎた頃だってのに、吹き抜ける風には秋の匂いが混じっている。


あーあ。
今年ももうすぐ、夏が終わる。


「藤井!」

「よう」


ゆるく団子にされた髪の毛に、薄めのメイクをした夏乃は、今日はいつもより女っぽくワンピースなんか着てる。



「チャリで行く?」

「アホ、今日は電車だ!電車」


昨日の夜、21時を回った頃。俺のスマホが突然メッセージの受信を知らせて震えた。

差出人は夏乃で、


【明日、夏っぽいことしに行こう!】

メッセージを確認した俺は、本当に突拍子のないやつだな〜とか思いながらも、

【おっしゃ!行っとくか〜】

なんて返してる辺り、安定のノリの良さ。



その後のやり取りで海にでも行こうと言う話になったわけだ。


チャリで夏乃の家まで迎えに来た俺は、もちろんチャリで駅まで行くつもりだったけど、


「じゃあ、駅までチャリ乗ろうよ!早く着くよ」

「やだ。……疲れんじゃん、こぐの」

「えー?私がこいであげよっか?」


ワンピースの夏乃を見てその考えは捨てた。


「夏の日差しを受け止めてたまには歩くべ!これも夏っぽい!!」

「やだよ!焼けるじゃん!」


だから、スカートでチャリ乗るって発想は捨てろって言ってんだろうが、バカ夏乃。
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