愛すべき、藤井。
ぎこちなく繋いだ夏乃との手を、離せないまま電車に乗り込んだ俺は、さっきから続かない夏乃との会話に1人気づかれないように頭を抱える。
あと二駅で降りるってのに、手を繋いだ辺りから夏乃はめっきり口を開かなくなった。
いつもは無駄にうるせぇくせして、こんな時ばっかり黙り込むって、ありかよ。
あれか?デートだからか??
俺がリードするべきなのか???
つか、夏乃とデートって全然 現実味湧かねぇし。何話せばいいわけ?いつも……何話してたっけ、俺。
「藤井?」
「え?」
「降りるよ!」
「お、おう」
ぼーっとしすぎだろ、俺。
これじゃあリードする余裕ゼロだ。
電車を降りながらも、やっぱり繋がれたままの手。いつまで繋いでんだろ、これ。
俺から手を繋ぎに行ったってのもあって、離すタイミングが分からない。
不思議と嫌じゃねぇけど。