愛すべき、藤井。
そんな俺に気付いた夏乃が「ぶはっ」と噴き出したのは、ちょうど駅を出て、海への道を少し歩いた頃だった。
「は???急になんだよ」
「ク、ククッ……アハハハ!」
さっきまで黙ってたかと思えば、今度は急に大爆笑しだす夏乃に、いい加減もう何が何だか分からない。
「お前なぁー!」
「ごめんごめん…!つい、おかしくなっちゃって!藤井が手つなごうって言うから繋いだのに、まさかそんな分かりやすく『どうしよう』感出されるとは思ってなかったから」
その言葉と一緒に、パッと離された手が八月の風に触れて、ほんの少し寂しさを運んでくる。
「俺は別に、」
「いつもの藤井がいい。変に気負わないでよ。気持ち悪いから」
「き、気持ち悪いって!!」
「かっこいい藤井とか求めてないから。藤井が藤井だから"好き"なんだ、私は」
そんな夏乃の横顔に、なんて説明したら伝わるのか分からない、だけどどうしようもなく、誰かに伝えたい……
そんな、不思議な気持ちがこみ上げてくる。
……温かくて、どこか懐かしくて……。
夏乃の笑顔にどうしようもなく胸がグッと苦しくなった。