半径一メートルのキョリ
私と彼
私は柑橘南高校の二年生。柑橘南高校では魔法のエキスパートを育てておりいわゆるエリートが集まる学校だ。

私は魔法の匂いを嗅ぐことができるっていう特殊な魔法を持っているから入学できた。

まぁ勉強が大変なんだけど・・・

ため息をつきながら登校していると、見知った背中が二つ前を歩いていた。

「やっほー、いおくん、あおくん!今日もめちゃくちゃかわいいね!」

「なんかナンパみたいな話しかけかただねぇ?」

「まぁそれでこそ果奈ちゃんって感じはするけど、男なのにかわいいってあまり嬉しくないよぉ」

間延びしたおっとりとした声。二人が振り返ると、驚くことに彼らは全く同じ顔をしていて、なんとも愛らしい整った顔だちをしているのだ。

さらっとした細い糸のように艶やかな空の色の髪。くりっとした大きな瞳。少したれ目がちなのがまた可愛い。

二人は見分けをつけるために、口調を変えている。

兄のいおくんは、「~ねぇ口調」

弟のあおくんは、「~よぉ口調」

というように。

「ほんっとうに可愛いね二人とも、どうやったらそんなにお肌プルプルになるの!?触っていい?」

「君に触らせたら際どいところまで触るから嫌だねぇ」

「下心を隠す気持ちもないよぉ」

ばっさりと切り捨てられる。

下心があるんだから仕方がない。

私はかなりのイケメン好きで、この学校に入学したのもパンフレットに写っていた生徒会長がイケメンだったからだ。

だからイケメンには触りたいし大好きって言いたい。綺麗な顔に綺麗っていいたい。
それの何が悪いんだろう。

女子からは何故かよく反感を買う。

好きなものを好きって言ってるだけだよ?

まぁ、顔面偏差値が中のやつには・・・

「おはようございます、果奈先輩、えぇと、右の方がいお先輩で左の方があお先輩ですよね?」

「あ、泉くんだねぇ!おはよう。俺がいおでこっちがあおくんだから逆だけど」

「区別しようとしてくれて嬉しいよぉ。もうみんな諦めてるのに」

双子がにこにことはしゃぎながら挨拶してきた少年に駆け寄る。可愛い。天使だよ、あれ

「いえいえ、当たり前ですよ。あなたたちは双子であっても二人の人間なのですから。まちがえてしまって申し訳ありません」

双子が彼の周りをくるくると回っている中心で彼がちらりとこちらを見て、

「改めまして、おはようございます♪果奈先輩」

愛想よく笑った。

「だから、話しかけないでくれる?凡人。私はイケメンが好きなの。あとあんた臭いんだよね」

「臭いなんてひどいですね」

私の言葉に微笑む彼は中肉中背の中性的な顔立ちをしている。
私の最も嫌いな人種、凡人の池見泉。

「知ってるでしょ?私は魔力の匂いを嗅ぐことができるんだって。あんた馬鹿みたいに匂いが強いから」

「それだけが僕の長所なんですよ?」

「私にとっては害でしかないの。ほんとに臭いから近づかないで凡人」

「僕のことを凡人なんて言うのあなただけですよ」

「知らないから」

池見泉は顔こそ凡人だが、魔力だけは優れていた。まぁ私にとってはイケメンじゃないんだから凡人は凡人なんだけどね。

というか本気でかなり匂いがきつい。

「そういえばどうして泉くんが高校にいるの?朝からは珍しいねぇ」

「そうだよぉ、いつも放課後だよね」

そう、彼はこの高校の生徒ではない。それどころか高校生ですらない。彼は、中学生だ。

優れた魔力からいつも放課後に高校生と合同練習を行っている。まぁ、圧倒的に彼の方が強いから相手にならないのだが。

でも、今ここにいる。

「あぁ、今日は今度行われる柑橘南高校の魔法大会の打ち合わせらしくて」

毎年恒例の学校内の文字通り魔法で戦う大会だ。

「それで、どうして泉くんが呼ばれるんだろうねぇ?」

「君は魔力が異常に強いだけのただの中学生だよぉ?」

「色々ありまして・・・」

泉が苦笑いを浮かべて誤魔化す。

「ところで果奈先輩」

「ん?」




「好きです」





いおくんとあおくんがひゅっと息を吸う音が聞こえるほどの静寂。




私は、


「嫌だよ、凡人」




冷たくいい放つ。



「またダメですかぁ」

しかし、泉はへらっと笑う。

「何回言っても同じだから」

何回も何回も、私は彼に同じ言葉を投げている。そして、彼は私に同じ言葉を投げる。「好きです」と。

私は、凡人には興味ない。


うん、きっとそう。


だから、



「触れることもできない恋なんて嫌だよ」



という言葉はそっと飲み込んだ。



私は彼の長所である魔力のせいで彼に指一本触れるところか半径一メートルすら近づくことができない。

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