涙のあとで、風は吹く。
 「香、穂……」



 大きく目を見開いて、夢のような光景を、ただひたすらに見つめる。


 長く伸びた黒髪を風に揺らしながら、白いワンピースを来て、目の前に座っている。



 「ハルくんっ、お久しぶりだね」



 目の前の彼女が、そう言った。


 半年前と変わらない、明るい笑顔。


 それに見惚れていると、彼女の白い腕が、僕の方に伸びてきた。



 「もぉ、ハルくん。泣いちゃダメだよぉ」



 少しずつ歪む視界に、泣いているのだと気づく。
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