涙のあとで、風は吹く。
 けれど、伸びてきた腕は、僕に触れることはなかった。


 一瞬、彼女は悲しそうな顔をする。



 「ハルくーん、笑ってよぉ? そんな悲しい顔ばっかりされても、私、悲しくなっちゃうんだから」


 「……香穂、なの……?」


 「そうだよ? ハルくんの大好きな香穂ちゃんが来てあげたんだぞ?」



 面白そうに、ケタケタと笑う彼女。


 僕は手を伸ばした。


 君に、触れたかった。
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