七瀬クンとの恋愛事情


秘書なんて感じには見えなかった

私にはそこにいる専務さえ目に入らない
綾子とジロさんのその時の微笑み合う姿しか見えなかった

ホテルのロビーへ戻る社長たちの背中を、咄嗟に追いかけるために駆け寄ろうとする私を、脇谷くんに腕を掴まれて止められた


「たぶん仕事だ、松原」


「でも、だったらなんで私が知らないの?綾子が一緒なのはなんでっ?」

「…………綾子の親が会社立て直しのための新規顧客確保に協力しているって話だから」


綾子の父親は大手電機メーカーの役員だと聞いた事がある
そうならその場に綾子がいてもおかしくはないはずなのに

一瞬見せたジロさんの綾子への優しい眼差しに嫉妬した、我慢ができなかった

私の頭の中には、最近のジロさんのヨソヨソしさや、綾子の付き合いの悪さへの不安が過っていた


そしてその不安は、暫くすると確信に変わった


少し前まで彼はお互いの居心地の良さを求めていたはずなんだ
私との食事や会話、時にはジロさんの部屋に行って新婚のような休日を過ごしたり

そして社内での些細な出来事を話し合ったり、時に笑い合ったり


でも………彼が今一番に求めるものはそんな話や癒しだけじゃなかった


この先の将来で一番に考えたいのが会社の方向性や行末だった

そして、そんな彼の蓄積された不安を取り除けるのは私じゃなくて綾子だった



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