七瀬クンとの恋愛事情
「悪いと思ってる、でも僕には今綾子が必要なんだよ……わかってくれる?」
日々の雰囲気から、何を言われるのか予想がつきつつ臨んだ彼からの食事の誘い
そこは数回食事に連れてきてもらった夜景の綺麗なホテルのラウンジレストラン
前回来た時にはどんな話をしていただろう
彼が『綾子』と呼ぶことで、すでに私の知らない親密さを感じた彼の声
美味しいはずのお酒も食事もほとんど手を付けられず、分かっていたはずの『別れ』に頭が真っ白になった
ジロさんが綾子を選んだのは、ただ会社のためだけかもしれないって、何処かではそう思いたかったんだ
「………わかりました。」
社長を目の前にして私は、声を震わせるながらそう精一杯の強がりをみせた
それは、
25歳で恋愛経験不足の私が、ただどうしても我慢ならない状況なのに何も対応出来なかっただけだった
『嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、イヤだ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、イヤだ、嫌だ、嫌だ、いやだ。』
本当なら頭の中はそんな言葉が駆け巡っていたのに……
その言葉は、のどを通らないまま胸に押し込んでしまった
本当は身が引き裂かれるくらい辛かった
何度も喉元から込み上げて、涙が自然と溢れのを押さえ込んでいた
だから、その後気が付かない内に無理もした
その結果、体調不良で倒れて何日か仕事を休んだこともあった
その何日か休んで自宅に閉じ籠っている間に、
今まで夢を見ていた半年間の気持ちの何もかもに蓋をして、何も無かったかのように仕事に没頭した