七瀬クンとの恋愛事情
「は…………さんまん?」
ニッコリ笑って私の前にその長い腕から伸びる私の倍ある大きな手のひらを差し出した
「飲み代と、ハイボール溢されたスーツ代」
「えっ?スーツに、ハイボール………って?」
良く見れば彼の上着の袖から裾にかけて濡れた跡が、ズボンにも結構広がっていて
「あゝ、ついでにタクシー代も都合してくれるとありがたいです。でもそれはちゃんと後でお返しますから」
どうやら寝てる私を起こそうとした時、寝ぼけて振り上げた手が、残っていた私のハイボールのグラスを倒し彼めがけて流れていったらしい
「なっ、ちょっと!」
咄嗟に、そんな事言ってる七瀬くんの腕を掴んで近くにあった公園に引っ張り込んだ
「そこ座って!!」
公園のベンチに彼を座らせ鞄にあるハンカチとティッシュを取り出し水場に駆け込んだ
「え………倫子さん?」
「いくら透明無色だって乾くと跡になるんだから、濡らして直ぐに落とさないとっ」
「……………」
ぽんぽんぽんぽん…………っとシミにならない様に叩きだす
暗くてよく見えないけど、なんとなくお酒の匂いと濡れた感触をたどって、後からクリーニング出せば大丈夫ように
「いや、あの…倫子さん?」
「ちょっと待ってすぐ出来るから」
真剣にその作業に集中していると、弱々しく七瀬くんから声がかけられた
「なんか…………静かで暗い公園内でこの態勢って、ヤバくないですか?」