七瀬クンとの恋愛事情
「ぷっ、くくっ……」
焦って財布を探す私の横で、肩を揺らしながら堪えるように笑う七瀬くん
「冗談っスよ……スーツ代なんて、それに飲み代立て替えたのも脇谷主任ですから」
そう言ってまだ口を押さえながら、
「すみません、カラオケ行かないで帰る口実です」と、頭を下げられた
脇谷主任とは私と同期の男性社員の人だ
「…………でも、スーツはっ」
それでもやっぱりクリーニング代くらいは、と顔を上げると、
逆に私の座高まで頭を下げて覗き込まれた
瞬間、顔の近さに身体を引いた
「倫子さんって」
「な、なに?」
「やっぱり可愛いね」
「………………っ」
な、ななななっ!
背中から引く私に、平行して七瀬くんの身体がナナメ上に迫る
また、ニィッと少し歯を見せる笑い方で見下げられた
絶対、完全におちょくられてるっ!?
この腹黒王子がぁっ!!
自分に勘違いさせないように、キュッと下唇を噛み締めた
「なんか、バカにしてるでしょ………」
「してないですよ、尊敬してますって」
引いたまま顔を逸らし、一歩離れてベンチから立ち上がった
「もう醒めたから帰りましょう」