七瀬クンとの恋愛事情
「それに小田さんの事だって、なにも嘘までつかなくても………」
おかげでいろいろなことを余計に悶々と考えてしまったじゃない
抱き込んでいた七瀬くんの腕が少し緩まって、二人の間にスペースがとれて彼の顔を下から覗くと、目を細め私の頰にゆっくり手を伸ばしてきた
「あいつと倫子さんをもう二度と会わせたくなかったし、小田さんはただの趣味と好奇心で協力してくれてたから……」
それなら、尚更七瀬くんが小田さんの人物モデルなんてする必要なかったのに
「………迷惑かけてたのね、ゴメンなさい」
誤解して怒ったりして、きっと理不尽に思っただろう
「ここは謝るとこじゃなくてさ、『ありがとう』じゃない?」
そう言いながら屈託のない笑顔を見せる
なによ、これじゃあ全く立場が違う
「う………ありがとう」
「はい」
「………ねぇ」
「ん?」
「それで小田さんの漫画って、どんなの?」
何となく思った
漫画といってもいろいろあるし、七瀬くんがモデルになるならやっぱり少女マンガ?
「え、いや………聞いてない、かな…」
徐に視線を逸らす七瀬くん
「?」
そう言えば本名がペンネームだって言ってたっけ
だったら検索したら出てくるかも………
そう思ってローテーブルに置いた携帯を取ろうと手を伸ばしたのに
「倫子さんっ、俺……お腹空いたんだけど」
「え、あっ!」
そう言えば落とした買い物袋の中身は……!
「あーー」
二人で袋を覗き込む
卵がいくつか割れるまではいかなくても、ほとんどひびが入っているようだ
「………今日はオムライスじゃなくて、オムレツにしようか」