七瀬クンとの恋愛事情


扉の向こう側で男性社員2人組みが用をたしている

「ぅ…………っ」

音を立てずに出て行くのを待つしかない



「なぁ、そういえば今日松原主任のお見合いらしいぜ」


用を足しながら始まった雑談が、なぜか私の話題だった
まあ、このフロアーだから、同じ部署の人だろう

「あー、とうとう主任ちゃんも年貢の納め時かぁ〜」なんてまさかそう話す当人がすぐ近くにいるなんて思わないよな


暫くして、
男性社員2人がトイレから出て行った様子を伺って、その狭いスペースから出ようととしたのに、
なかなかその腕を離してくれない


「七瀬くん、もう行かないと」

掴まれた腕を振り解きながら顔を上げる

「…………」

「お見合い相手って言っても、あくまで仕事相手なんだから」

それに、はじめから断る前提だし


「………なぁ、やっぱり言っちゃわないっスか?俺たち」


「え?」

腕を離して、蓋をした洋便器に腰を下ろした七瀬くんが、前に立つ私を見上げた



座っている目線はほぼ同じで、ゆっくりと顔が近づいてくる


「…………ダメ」

「なんで?」

「なんでも、とにかくダメなもんはダメ」

「……………」

その理由を求めるような眼差しで見つめられるが、離れた腕から身体を翻し扉を開けて、誰もいない事を確認してそこから脱出した



「あんまり遅くまで待ってなくていいから、ちゃんと家にかえりなさい」

そう言い捨てて、すぐに隣の女子トイレに入った

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