七瀬クンとの恋愛事情
体温が伝わる背中から、屈んで傾いた彼の唇が耳元に触れて息がかかる
弾む心臓の音を隠すように肩を上げた
「っ気まぐれな屋台だからいつ出てるか分からないけどねぇ……って、お茶入れられないよ」
肩に回る彼の腕に、離しなさいと手を添える
「…………」
なのに、腕が外れるどころか背中に彼の重みを感じる
「七瀬くん?」
「………今日どうだった?」
さっきまでは年下みたいに敬語だった彼の声が、いつのまにか低音で私の耳元に囁く
「え?」
「お得意様とのお見合い」
額が私の右肩に乗りかかると、彼のウェーブのフワフワな黒髪が私の頰に触りながら肩からくぐもった声が響いた
聞きたいのか聞きたくないのか、
顔をそのまま上げようとしない
「ああー……」
「この時間に帰ってきたって事は食事で終わったって事でしょ?」
「………うん」
「ちゃんと断ったよね」
確かに、初めから断るつもりだったし、あの状況は結果的に断った事になったよね
そのまま一息小さく息をついた
「食事もそこそこで中座したから、小腹もすいてる」
そう言うと、肩から顔を上げた七瀬くん
「食事の途中で終わったの?」
それはホッとしたような明るい声だったから
少し油断した
「うん、なんだか話がややこしくなっちゃって、出来るだけ相手を怒らせないようにしたかったんだけど、途中で高科課長が勝手に話ちゃうし……」
「……………えっ、ちょと待って?」