七瀬クンとの恋愛事情
「鍛えてただけに、身体の力有り余ってんだよねぇ、俺…………」
にじり寄って豊田さんの胸ぐらへ手を伸ばすと
瞬時に後ずさり、立ち上がって身体を翻した
豊田さん
「なんだよっ!ただ一方的に別れるなんて言うから話に来ただけだろ!?」
「………倫子さんは、話したいの?」
私を指差して言う豊田さんに対して、内容確認のため私振り向いた七瀬くんに、私はふるふると首を振った
「なんなら、俺が間に入って話しするけど?」
聞いた事のない七瀬くんのドスの効いた低い声だったが、
彼の背中にいる私からはその表情は見えない
でも、これ以上七瀬くんを喧嘩腰にさせてはいけない
「あのっ、この前の事は本当にごめんなさい
でも、やっぱり私には無理ですっだからっ」
メールで別れるなんて身勝手だっただろうか
でも私には、豊田さんを理解できそうもない
七瀬くんの背中に隠れるような形で、とにかくそう謝罪した
「………それ、男を盾に言うことか?あんた、常識ないんだなっ」
吐き捨てる様にそう言って、汚れたスーツを払いながら豊田さんは背を向けて行った
その様子を見送る七瀬くんの背中が、暫くして
ゆっくりと後ろを振り返った
「倫子さん、大丈夫?」
「えっ?あ」
さっきまで、豊田さんがビビるくらいの凄みを帯びた声を出していた人じゃなくて、いつもの七瀬くんだ、なんて思いながら見上げていると
七瀬くんの視線は、私が掴む彼のスーツの裾を見ていた
「ああっ! ごめんっ」
かなりがっしりと掴んでいて、夏用のスーツにシワをつけていた
それをゆっくりと離した
「あ………ありがとう」