七瀬クンとの恋愛事情
「………はい」
頭にはまだ乗ったままの課長の大きな手が、素直に頼もしいと思った
「よしよし、いい子だ」
この人は、いつもバカにされないように気を張って仕事をしている私を上からまるで子供扱いする
そんな人がずっと前から私を好きだったなんて、まだピンとこない
「高科くん」
執務室を出たすぐ先の廊下でそんなやり取りをしていると、そのドアから出て来た宗馬社長に一度呼び止められた
「今、専務から先方に連絡いれてるから、もう少し待ってくれるか?」
「わかりました」
一旦その場で課長が社長の方へ足を向ける
私はとりあえず戻ろか………そう思い、頭の上から離れていく手を視線で追った
「松原さん、ちょっと」
………え?
社長に顔をむけると、課長の足が止まった
「はい?」
呼ばれたまま近づいていく途中、社長が課長にに視線を送っていることには気づかなかった
「社長?」
宗馬社長は、私に合わせて少し前屈みになりながら
「今回のことは、すまなかった。専務から報告を受けたまま君にお見合いを押し付けたりして………」
声を落とし気味にそう言うのは、たぶん個人的な謝罪だからだ
「嫌な思いをさせたね…」