七瀬クンとの恋愛事情

…………えっ?

小さく立ち上がるため、長椅子に手を置いたところに、大きな手のひらに掴まれひっぱられて持っていかれた

「!!!」


少し離れたところから声をかけてきた二人の同僚から私の姿は見えてないみたいだが、掴まれた手を振り解けばバレてしまう

仕方なくその場に待機する



「七瀬も誘ってくれって古坂に頼まれからさぁ」

「……………」


「古坂が?」



「そ、なんか謝りたい事があるからって言ってたっけ?」


同僚たちとの会話が聴きたくなくても耳に入る


「古坂と何かあったのか?」


「…………………いや、別に?」


一瞬溜め息をしてなにか言葉を飲み込んだような低い声
それに今から、少し長い『間』があったような気がするが

「何もないよ」


そう言って同僚を見上げている七瀬くん

……………古坂さんの謝りたいこと?


心なしか七瀬くんに握られた手がキュッとした


「ま、来週から七瀬忙しくなるんだろ?水嶋の物件の立ち上げで」


「ああ」


「だったら今日はパァっと行こうぜっ」


同僚の一人が七瀬くんの肩を叩いて気持ち顔を近づけている

「社内で一番人使いの荒い鬼の脇谷との残業地獄がまってるんだ、今回は役職のじじばば無しの若手のみの予定でなっ」

得意そう言う


………鬼の脇谷? へぇ、彼もそんな風にいわれたりするんだ

確かに顔がヤッさんだし、普段口数が少ない割に人を見下した喋り方するからなぁ
心の弱い後輩は病んでいく時もあるらしい

しかし、『じじばば』は聞き捨てならんな。私だって同じ年齢なんだから


思わず七瀬くんの陰で眉をひそめた

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