七瀬クンとの恋愛事情
人の気も知らないで言ってるのを、分かってるから適当に話を終わらせようと思った
「そうね、貴重なご意見ありがとう」
「これが将来のラストチャンスかもよ」
「…………う、」
「失礼します」
パーティションで囲まれたミーティングスペースの会話は、彼の声で遮られた
「脇谷主任、ミーティングいいですか?」
私の後に脇谷くんとミーティングを控えていた七瀬くん
視線を上げた私と目が合った彼に、思わず不自然に目を逸らせてしまった
「あっあぁ悪い、もう終わったから」
脇谷くんの正面に座っている私のすぐ後ろに来た七瀬くんの顔を見上げる事も出来ず
バタバタと資料を片付け胸に抱える
「アハッごめん、後仕えてたね」
そそくさとその場を退散しようと、彼を通り過ぎる
「………松原主任」
すれ違う寸前に呼び止められ、ぴくっと肩を上げる
足を止めてそっと顔の半分だけを戻すと、さっきまで飲んでいた私のコーヒーカップを渡された
「忘れてますよ、これ」
「あ、そうだ………ありがとう」
なんだろう、この微妙な空気
彼の顔を見上げると、
『七瀬と別れて』と言った古坂さんや、嘘ついた先週末のドタキャンの後ろめたさ
それと
朝見かけた古坂さんとのツーショットが
頭の中で駆け巡る
「そう言えば七瀬、先週末は少し羽目はずしたんだって?」
脇谷くんの言葉に反応するように、カップを渡してきたその顔がピクリと止まる
「?」
「なんの事です?」
そう言って身体を翻す七瀬くんに、
まるで無視されたように感じて
私はそのミーティングスペースを出ていった