七瀬クンとの恋愛事情
定時で退社際、エレベーター待ちで高科課長に飲み会の事を伝えられ、思わず頰が上がる
「へぇ、飲みに行くんだ……」
エレベーター待ちの私の背後からそう声がして、思わずギクッと肩を揺らした
そっと後ろを向くと、遥か上にある七瀬くんの顔がちょっと不機嫌さを見せていた
「あ、……遊びに行く訳じゃないわ、花菱の加納さんとなんだから」
「花菱?ああ、新しい案件の?」
「そう、花菱商事の女性担当の人と二人での食事会なの」
別に『女性』を強調しなくてもいいんだけど
「ふぅん、」
それに仕事って訳でもないけど
そのうちにエレベーターの扉が開いて乗り込むと、後に続いてきた七瀬くん
扉が閉まるころには他に2人ほど乗ってきて、並んで奥の壁に凭れた私と七瀬くんより前で階数表示を見上げながら話しをしていた
「…………」
物静かなエレベーターの中で彼らのたわいのない話しが小さく響く
七瀬くんとの久しぶりの距離感に、つい伏目がちに顔を背けていると、
フッと影がかかった瞬間目の前に七瀬くんの顔が広がった
「……っ!」
唇に感じる柔らかな感覚に目を見開いたまま
微かに触れる唇から温かな彼の息がかかる
二度目には開かない私の唇を舌先で撫でられ、
思わず手に持ったショルダーバッグを落としてしまった
ドサッとたった音に、目の前にいた二人が一斉にこちらに目を向けたが、同時にエレベーターは1階へと到着を示した
すでに目の前にあった七瀬くんの顔は、
186㎝のはるか彼方に戻っていて、
何食わぬ顔して「お疲れ様でした」っと言った