七瀬クンとの恋愛事情

「え?」

私に向けた携帯の先から彼女が顔を覗かせ

「その姿、ネットに載せてあげる」

そう言って笑った


「ちょっ…!」


私から身体を翻した彼女を、すぐさま高科課長が腕を掴んで携帯を取り上げた


「こんな事、やっていいと思ってるのか?
カナちゃん!!」

そう言って、すぐに今撮った写真を消してくれた

「今後またこんな事をするなら、こっちも最悪考えるよっ」

彼女の片手を強く掴んでそう言った課長が、携帯を返して腕を離した


「………なによっ、もう」

いまにも泣き出しそうな顔を歪めながら行ってしまった




「…………」


少しの間、彼女が去って行く背中を濡れたまま茫然と見送った



「倫ちゃん、大丈夫?」

高科課長に声を掛けられ我に返った


「だ、大丈夫で……」

「じゃないだろ、その状態じゃあ」

私の傘はだいぶ先に飛ばされていて、髪も服も何もかもびしょ濡れ泥だらけになっていた



「とにかくうちに行こう」

高科課長が私の傘を拾いあげて、背中を押すように駅とは違う方へと連れて行かれた


「いや、大丈夫ですっ」

課長の家って………

「その格好じゃあ電車にもタクシーにも乗れないだろう」


一瞬の抵抗も、ほかに有無も言わせず納得させられた



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