七瀬クンとの恋愛事情
うっ………思い出したくもないことを
「ん、ああ〜〜それ、別れました」
顎を少し上げて、思いっきり強がって見せる
「あれれ?もしかして結婚するかもって言ってなかったか?」
「…………う…」
なによ、その嬉しそうな顔ってば
そんなに幸せ逃した女が面白いかっ?!
「なんでダメになったの?」
必要に人の顔を覗き込んでくる高科課長を回避するするように、テーブルの中央にあるつくね串に少し手を伸ばした
「縁が無かったんですっ」
「へぇっ、振られたの?」
あきらかにニヤニヤと口の端を上げているのが分かる
う…………くそっ、絶対面白がってる
「そ、そんなこと高科課長には…………っ」
「それってセクハラじゃないっスかぁ?高科かちょー」
「「!?」」
その声と同時に私たちの座る上から大きな影が掛かり、それに振り返ると
「おっ、七瀬ぇお疲れぇーーっ」
ひときわ背の高い彼を見つけた社員が声をかけ、周りから注目される
一度、主役の山村さんへ挨拶した後
その影はゆっくりと高科課長と反対側の私の隣へ移動し、顔を上げた私たちと目を合わせた
「…………お疲れさま」
「どうも、遅くなりました」
その場所に当たり前のように座ると、テーブルにあるグラスのビールを取って飲み干した
「あ……」
…………それ、私のグラスなんだけど
とは言えぬまま、一瞬出した手を引いてその様子を見送った
「七瀬、出先からか?」
私を挟んで高科課長が話し掛ける
「ええ、システムトラブルで………」
答えておきながら視線を向けず、
さっき私が取ったのと同じテーブル中央にあるつくね串に手を伸ばしている七瀬くん