七瀬クンとの恋愛事情

薬が効いているためだろう、名取や脇谷主任が帰ってからまだ間もないのに、まるで沈み込むように眠っている


これはきっと起きないな


ベッドに片肘を乗せて頬杖をついて、熱のせいで赤みがかった痛々しい彼女の寝顔を暫く見つめた

「………倫子さん、ごめん」

スゥスゥと眠る倫子さんにキスしたくても、大きなマスクが邪魔をしているから、
仕方なく
目に掛かる前髪に指を伸ばすと、その指に触れる熱の高さに胸が痛んだ


「そういえば、手のひらに怪我って………」

高科課長が名取に言っていた手当ては?

布団から両手をそっと引き出してみると、大きめの絆創膏が少し剥がれかけていた

高科課長からの見舞いの中には傷のための絆創膏も入っていて、たぶん手当てはし直した後だと思う
剥がれたのは寝ている間だろうか
きっと名取の手当てだからこうなったんだろう


俺と比べたらはるかに細く小さな手だな

なのに
仕事ができて頼り甲斐があって、要領よくテキパキしてて、料理も上手くて

小さくてかわいくて、凛々しくて

どうしようもなく愛おしい人





少しシワシワになった絆創膏を丁寧に伸ばして貼り直した

その手を握ったまま、少し顔を近づけた

「好きです………」

聞こえないとわかってて言って照れてる自分が情けない


この時まで、まだ俺はそのうちすぐに仲直りできると思っていた



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