七瀬クンとの恋愛事情
「違うよ、それ七瀬くんのせいなんかじゃない」
少し乗り出した倫子さんがヨロけて一瞬倒れ込んだ
「風邪は自分の不注意だし、カナちゃんは初めから七瀬くんじゃなくて私に向けた不満だったもの………ゴホッ」
勢いで喋ってむせるように小さな肩で咳込んだ
「倫子さん、横になっててよ」
「私の方こそごめんっ」
起き上がったままで腕の袖を掴む手に力が入っている
項垂れるように頭を下げ、表情が見えないまま弱々しく声を出す
「………ごめん」
「倫子さん……?」
「私が悪い……何もかも中途半端で、曖昧にしたまま都合の悪いことから逃げたり、助けてくれるのをアテにしたりして………」
俺の袖を掴む彼女の手が、微妙に震えてる
「だからちゃんとしなきゃって」
下を向いたままそう言う倫子さんの顔を覗き込んだ
「………ちゃんと、って何を?」
「…………」
言い辛い事だから顔を上げられずにいるんだろう
俺にとって良くない話だと分かる
「もしかして、本当に花菱への転職考えてるとか?
でもっ、倫子さんが本気でそっちで仕事したいなら俺は別に止めたりしないし…」
そう言った俺に、倫子さんはゆっくり首を振った
「この前のこと、私に七瀬くんを責める資格ない」
「………………」
ゆっくり顔を上げた倫子さんの、熱っぽい顔に潤む瞳をじっと見つめた