七瀬クンとの恋愛事情
彼女がまだ何か溜めているのは表情を見れば分かる
「だからもうこうゆうの、やめよう」
震える声は、
俺の聞きたくもない答えだった
ちゃんとしたいのは、高科課長とのことだろう
「意味がわからない…」
なんかよくあるテレビドラマのような台詞だ
なんだこれ、まるで別れ話みたいだ
「………………」
俺の指は勝手に彼女の熱のある頰を摩ると、邪魔なマスクを引き下ろして
ゆっくりと顔を近づける
「ダメだよ、うつるから………」
キスをしようとする俺に、頰と同じくらいの体温を持った小さな手がそれを遮るけど
「いいよ、うつして………ってか俺バカだから大丈夫」
「七瀬くんは馬鹿じゃな………っ」
彼女の熱い息を塞いで、そのカサついた唇に潤いをあたえるようにキスをした
優しく、印を付けるように
でもいくら彼女の唇を濡らしても、まるで一方通行で
好きだと、伝えたくても伝わらない
唇から離れながら小さく心が呟く
………結局先に自分で決めてしまうんだこの人は
正直自身がなかった
このまま高科課長と倫子さんが正面から向き合った時、俺は無力ないんじゃないかと
ジッと我慢して見守っているだけで、きっと何も出来ない気がする
やっぱり敵わないのか
倫子さんが入社してから一緒にいた奴との時間と
俺と10年差のあるあの包容力には
「七瀬くん………」