七瀬クンとの恋愛事情
いつの間に眠り込んでいたんだろう
バタンッと玄関のドアが閉まる音に目を覚まし、帰ってしまった事を理解した時には遅かった
ハンガーに掛けられたスーツや、アイロンしてストックしてあった何枚かのワイシャツや下着、そのほか彼のためにあったもののいくつかが適当に無くなっていた
黙って行ってしまった七瀬くんに
咄嗟に電話をしようとして携帯をとったけど
なにをする話もない
「…そうだ、終わったんだった…」
手の中に入れた携帯を布団に投げ出した
まだ始発さえ出ていない時間なのに
この時間でタクシーが捕まるはずないから
たぶん、駅前にある24時間営業のコーヒーショップで時間を潰しているのかもしれない
追い出したのは、私だ
彼にとったら一分たりともここには居たくないはずだ
テーブルの上には高科課長からの差し入れが入ったビニール袋が置いてあって
薄暗い部屋の中、ベッドから出てそのテーブルの前でペタンと座る
これでいいんだ
私たちの寄り道は終わり
思えばストーカー化した豊田さんが現れてからたった3ヶ月ほどしかたっていないのに、彼の居ないこの部屋がやたら広く感じる
重たい頭を冷たいテーブルに落とすと、大きなビニール袋の横にさっきはなかったコンビニ袋が置いてあった
「………あ」
杏仁豆腐……だ
駅からマンションまでの帰り道
二人でよく立ち寄ったコンビニで『倫子さんは何が好き?』って
お互いに好きなスイーツを選んでいたのに、
結局私が手に取って買った杏仁豆腐と同じものを選んだ七瀬くん
この部屋で一緒に食べて『意外とうまい』ってハマってそれ以来よく買ってきてたやつだ
でも、ここにあるのは私の分の1個だけ