七瀬クンとの恋愛事情

まるで感心した様にそう言う名取さんは、
いままで散々人のこと言ってなかったっけ?

『昔は社長の愛人だったから……社内やりたい放題ってやつ?!』なんて言ってたよね確か

「……………言っとくけど、愛人なんてしてないから、ちゃんと付き合ってたし」

「じゃあなんで別れちゃたんです?」

「く………っ」

屈託なく見つめてくる名取さんに、おかわりしたグラスビールをクィッと喉に押し込んだ

お酒が入ると、閉じていた心の扉が少しだけ開けられる

「仕方ないじゃない、振られちゃったんだから…」

口をへの字に曲げて思い出す場面は、頭を下げたジロさんと並んでいる綾子だ


「ククッ…やっぱりまだ根に持ってるんだ」

私のその表情を見て脇谷くんが笑う

「違う、別にもう綾子のせいなんて思ってなんかない……前は確かに裏切られたってことだけで意地になってたけど、今にして思えば綾子も必死だったんだなって………」

「綾子さんって?」

私たちの会話に横から食らいついてくる名取さん

「社長の奥さんで、俺たちの同期、んで松原の恋敵だった娘」

「へぇっ〜!」

どこまで理解されてるか分からない
もうなんか勝手に暴露されてるし

「そういえば社長の奥さんって見た事ないですね、どんな人だったんですか?」

「………………どんな人って」

綾子の人柄は、おっとりしててお嬢様系の立ち振舞い、一概に言えば…

「癒し系に見えて……」

「実はしたたかだったな」

脇谷くんがそう呟いた

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