七瀬クンとの恋愛事情
「ほら、ちゃんと媚びの売り方もわかってる」
「……媚びって」
もっとなんか言い方ってあるんじゃない?
「ってか、確か駅の近くのコンビニにあった探し猫の張り紙ってコイツじゃないっスか?」
私から子猫を取り上げ自分で抱き上げながら顔を確かめる
「七瀬くん、どうして……」
どうしてここに君がいるの?
「行こうよ、倫子さん」
不思議なことに、そう言って子猫を片手にもう一方の彼手が私に伸びてきた
「………………」
「倫子さん?」
私に伸ばされたその手は、ほんの何時間前彼女の指と絡み合っていたはず
そう思い一歩足を引いた
「……こいつ、ひとりぼっちにさせたいの?」
その小さな身体が少し居心地悪そうに七瀬くんの腕の中でもがいている
「だって….」
ふうっと息をついた七瀬くんがクルッと背中を向けながら
「行こう」と先に歩き出した
その仕草でさえ胸が痛くなる
仕方なくその後ろを何となく離れないでついて行く
訳の分からない胸のザワつきが続くまま、駅の方にあるさっき寄ったコンビニに戻った
「あ、本当だ。この子だ」
七瀬くんの言った通り、写真付きの探し猫の貼り紙は茶トラでくりっとした目に鈴のついた首輪した今まさに七瀬くんの腕にいる子猫だ
「電話番号が書いてあるからこの番号にかければいいのね」
貼り紙を見ながら自分の携帯を取り出してその番号にかけようとしたのに
「なにやってんの?ダメですよ倫子さん」と、横から携帯を取り上げられてしまった