七瀬クンとの恋愛事情
「私、30過ぎてるんだよ?」
「それ問題ある?」
「一応上司だし、見た目似合わないからみんなに言われるよ?釣り合わないって…」
言いながら七瀬くんの胸の中から顔を上げると、肩に回っている七瀬くんの手にまた胸の中へ押し戻される
「他人に何言われたって関係ないし、それに今の俺の直属上司はあの『鬼の脇谷』だから誰が俺に贔屓されてるとかって思う?」
確かに、今は私と一緒の案件を扱うことはほぼなくなったけど
「じゃあもし、いつか七瀬くんが他に好きな人が出来たときには……」
「少なくともこの先にそんな予定はないし、ずっと先の心配されても困るんだけど」
ツンっとした言い方て、私の言葉を遮りながら
額にチュッと唇が触れる
身体を傾けて落ちてくる啄ばむような七瀬くんのキスが私の瞼から頰へと続く
「ちゃんとした答え、教えてよ倫子さん」
少しずつ溶かされた頑なだった気持ちは、彼を目の前にしてもうすでに決まっているはず
「……うん」
ただ、あとひと言がのどをなかなか通過してくれない
「倫子さんは俺をどうしたい?」
あくまで私から答えを引き出したいらしい
高い位置にあるはずの七瀬くんの顔が肩を落として、俯いた私を覗き込む
「………やっぱり、一緒にいたい」
のど元が途端に熱くなる
彼からする微かに残る古坂さんの香りが、トイレで塗り直していた彼女の口紅のピンク色を思い出し、まとわりついているような錯覚までおこしそうになる
「私だって七瀬くんが好き、だからもう簡単に他の子とキスしないで……」