七瀬クンとの恋愛事情
さらに注目度が増していく様子に、七瀬くんはがっつり私の手を取った
「脇谷主任、そうゆう事で今日は帰ります。」
いつの間にか腕組んで呆れた顔して見ていた脇谷くんへ、握られた手を上げて軽く頭を下げる
「何がそうゆう事だよ、企画書の期限は延びねぇからな。明日遅刻すんなよ」
「………あんた鬼だなやっぱり」
私たちが部署を出て行くとワァッと騒ついたのを後ろ手に、エレベーターに乗り込んだ
「これで堂々と社内でイチャイチャでき……あ」
先に足を踏み入れた七瀬くんの語尾と軽やかな足取りが、なぜか急にピタリと止まった
「どうしたの?」
前が見えないまま手を引かれて乗ったエレベーターの中で、彼の横から先に乗り合わせていた人物に目をやった
「………社長?なんで社員用のエレベーターに乗ってるんですか?」
上役は上役用の直通エレベーターがあるはず
装飾もないただ広いだけの社員用にエレベーターに一人で乗り込んでいた我が社の代表取締役
そんな状況に語尾や足を止めない社員はいない
「やぁ、ちょっと急用でね。1階でいい?」
バツが悪そうにそう言いながらも社長が向ける視線は私たちの繋がれた手に向いていた
階数ボタンから対面する位置へとそのまま頭を下げて移動した
「どうせ脱走でしょ?きっと秘書さん困ってますよ」
仕事に行き詰まったり、気になる事から頭が離れない時に彼は昔からたまに突然業務から抜け出す時がある。
何度も秘書さんが焦りながら彼を探しているのを見た事がある