七瀬クンとの恋愛事情
手を繋いだまま定時で帰る私たちにそんな事言われたくはないだろうが
「今からちょっとだけ高山屋の限定プリンを買いに行くだけです」
そう言って内緒でと人差し指を口にあてる
高山屋の限定プリンは昔から綾子の大好きなプリンだ。なるほど、二人目を妊娠している綾子へのお土産かな
最近忙しいからこっそり仕事を抜け出してまで彼女のご機嫌をとりたいらしい
綾子の方が社長に入れ上げていたのに、いまではしっかり手のひらに乗せられているようだ
結局あの頃
仕事をしながら彼の身の回りの世話をせっせとしていた私よりも、全力で彼を上手に操作する綾子の方が勝っていたんだ
「今度、奥様……いや、綾子に会いに行ってもいいですか?」
なんとなく彼女に会いたくてなった。6年も経っているから今更なんだけど
連絡をとらずに意地をはっていた私を許してくれるだろうか
「もちろんですよ。なんなら今からでもっ」
「いえ、週末にでも綾子の好きな高山屋のプリン買っておじゃまします。
ですから社長はすぐ仕事に戻ってください。」
そう言う私にフッと笑顔を見せる社長
「じゃあ連絡しとくよ。それだけで奥さんの機嫌は楽しみで直りそうだからね」
1階ロビーへエレベーターが止まるが、私たちが出ると社長はそのままそこに留まったまま
「君を変えたのは、彼?」
扉の開いているエレベーターの中から外にいる私へ呼びかける社長に振り向いた私たち