七瀬クンとの恋愛事情
ずっと意地をはって仲の良かった綾子の存在を締め出していた心の扉を、開けようかと思う気持ちになれたのは、七瀬くんのおかげかもしれない
「そうですね」
手を繋いだままはっきりとそう答えると、そのまま上に上がるボタンを押したのか、社長室へ戻るようだ
上役用のエレベーターには乗り換えないんだ…
また誰かが乗り込んできたらびっくりさせるだろうに
閉まっていく扉の前で軽く「お疲れ様です」と会釈した
「綾子さんって、社長の奥さんで倫子さんたちの同期だった人?」
駅に向かう人混みの中、至って手を繋いだまま私の歩幅に合わせて歩く
「そう、私よりずっと社長が好きで私より社長に好かれた美人でお嬢様でしたたかで幸せな子
あのころ同期入社の私と脇谷くんと綾子の3人すごく仲良かったのよ」
気の合った飲み友達で会社来て仕事してるのに彼女とのお喋りが楽しくてこの場所がすごく居心地のいいとこになった
だからこそ私たちの亀裂に長い間歩み寄れなかったんだと思う。
「週末、社長宅へいくの?プリン持って」
「うん……」
「……………」
ん、あれ?
黙り込んだ七瀬くんの顔を見上げると、ちょっと不機嫌そうな口元が見える
「何?」
目を合わせようとしても違う方へと移動する
「もしかして週末何かあった?」
お互いの誕生日でもないし、約束もしてなかったと思うけど
繋がれていた七瀬くんの手にキュッと力が入った
「………社長って、結局倫子さんの元カレでしょ?」