七瀬クンとの恋愛事情
完全に七瀬くんの両手が両側の逃げ場を遮って、身下げられた状態での…これって壁ドン?!
私の両手も重たいファイルで塞がってるために近づいてくる距離を止められない
逆に自由な七瀬くんの方が腕を曲げ、完全にその身体に覆われた
「え、え?………ちょっとっ」
近い近い近いっ
首だけを動かして顔を背けると、思わず持っているファイルを落っことしそうになった
「あ………それ、落としたらバラバラになっちゃうからしっかり持っててよ、倫子さん」
「だ、だ、だったら離れてよっ」
「やだ」
やだって………???!
さらに近い距離で息を吹きかけるようにそう言うと、伏せた私の顔を押し上げる様に近付いてきた顔を傾けられて
一瞬、唇が触れる
「…………っ!!」
思わず目をキュッと瞑ると、両頬を手で掴まれ、唇の先がかすりそうな位置で低い声を出した
「…………なんで昼に帰ってきてて連絡してくれなかったんです? 俺、会いたいって言ったのに」
「…………え?」
身動き取れないままゆっくり離れる唇を見送る
顔を付き合わすくらいの近さは変わらずに、目を細めて不機嫌に口を尖らせている
「いや、だって………」
貴方、今朝彼女ができたって言ってたよね?
これじゃまるで痴話喧嘩みたいだ
しかも何気にタメ口だし
なんだって今さらそんな話………?
「離しなさいっ七瀬くん、ここ会社でしょっ」
もう、ただただ腹が立ってきた
「どうせ、社内じゃぁ倫子さんと仕事以外で話できない」