七瀬クンとの恋愛事情
「キ、キスしたからってそんなの………」
車内の乗客はみんなスマホ中だが、周りを気にしながら声を極力抑えた
「そんなの?」
「…………っ」
モテる七瀬くんにとったら、簡単なコミニュケーションみたいなものでしょう?
いくら恋愛経験が乏しい私だってそれくらい
顔を上げた途端、ガクンッと電車が大きく揺れた
「わっ、」
咄嗟に隣に立つ七瀬くんの腕を掴みながら、全体重で寄り掛かった
それでもしっかりとしてビクともしない七瀬くん
「…………ごめん」
自分たちのスペースはあるものの、すぐ近くに固まった男子学生たちから私を離すように肩を引き寄せてくれた
少しの間、
密着状態のままで私は下を向き、殺伐とした周りの雑音にも耳を傾けずに考え込んでいた
あの時は、雰囲気に流されて何となくのキスしただけで、その先は踏み止まった訳だし
七瀬くんだって普段から「アレ」持ってるくらい軽いノリだったじゃぁ
ましてや彼と付き合いたい子なんて他にも沢山いるだろうに
『それ、騙されてるから』
やっぱり絵梨花の言った通りなんだろうか?
「倫子さんっ」
「はいっ!!」
「降りないんです?」
そこは既に私の降りる駅で
電車の扉から駅に降りている七瀬くんに声をかけられて、慌ててとび降りた
駅を出て真っ直ぐ私のマンションの方向へ足を向ける七瀬くんは、
そのまま私の一歩前を歩く
「…………あの、さぁ」
「はい」