七瀬クンとの恋愛事情
ゆっくりと私の歩幅に合わせて、その背中を向けたまま返事をした
「…………さっきのって、冗談なんでしょ?その、彼女って」
「ええ、冗談ですね」
「は?」
前を歩いている七瀬くんの背中がピタリと止まった
「って、そうしたいならそうしますけど?」
若干不機嫌そうな顔を私に向けてきた
「…………意味分かんない」
「意味分かんないのはこっちですって」
振り向いたまま、私の方へ戻ってきて、
頭を私の高さまで屈めて、顔を突き合わせて
そうして近づいてきた彼に、少し身体を引いた
「倫子さんって案外とつまんない女なんですね」
「…………っ」
近い距離からの、低い声に思わずカァッと頭に血が上る
「可愛いのに可愛いげがないから、今までいろんなチャンスを逃してきたでしょう?」
「なっ?!」
その口に反論する前に大きく溜め息をつかれた
「この前は結構可愛いと思ったのに…」
まるで思い切り拒絶されたみたいで、一瞬身体が凍りついた
チョット待って?! なんで、さっきから上から目線で物言われてるのっ?
「わかった風に言わないでよ、もういいから
マンション着いたし」
身体を翻し、マンションの階段を上がる
見た様子では、豊田さんの気配もないようだ