七瀬クンとの恋愛事情
新入社員として入ってきた彼は私だってやっぱり目を引く存在だったし
それに、よっぽど恋愛経験が御ありなのだろう
社内の女の子の扱いも心得ているようだ
一瞬先輩の男性社員からの反感を買ったが、それも持ち前の気遣いでクリアになった
策士なのか天然なのか、要は人タラシだ
「ほら、君も向こうに行ったら?いつまでも七瀬くんが行かないとそのまま呼ばれ続けるわよ」
「でも、俺が向こうへ行ったら主任寂しくないですか?」
ほらぁ、これだよこれっ!
「今日は一人で飲みたいのよ」
落ち着かないったらない
大体、教育係だと言って私と一緒に客先に向かえば、まず彼の身長に目が向く
嫌でも一瞬比べられてしまうし、そのちぐはぐが笑い話になり必要以上にその後コンビとして話題にされてしまうのだ
そんな大人げない不満を隠して彼に対応していると、自然に彼への口調に棘が生える
昔、高科課長と客先に挨拶廻りをした時、
『こんな見た目通りの子供みたいな社員ですがどうか長い目で対応してやって下さいね』
なんて、全くフォローになってない言われ方されたよりはマシだが
気持ちで負けないように、気張って生きていたら、気がつけばこの歳になっていたってやつだ
スマートに年をとっていないだけに、つい彼のリアルな社会人生活に嫉妬して牽制してしまうのは必然だ
「主任っ、七瀬解放して下さいよぉ」
ほらぁ、とばっちりがコッチに向けられただろ
と、彼を睨み上げると
仕方なくゆっくりとその場で腰を上げる
そしてその途中、不意に近づいた顔を傾けながら私の耳元に小声で一言
「じゃぁ倫子さん飲み過ぎないで下さいね」
「〜〜っ!」
思わず体を引いて、シッシッと手の甲で追い払うように送り出す