七瀬クンとの恋愛事情

「………倫子さん?」

「ごめん、も、今日は大丈夫だから」

自宅の鍵を鞄から取り出して開けようとするけど


身震いが止まらない

「ハハッ………情けない」

何がショックなのか、ジワりと目頭が熱くなって視界がボヤけてきたせいで、鍵が鍵穴になかなか入らない


人って怖い、って言うか本当に大丈夫なんだろうか…
この先ずっとこんな事があって、また段々エスカレートしてきたら

「俺がやるよ」


七瀬くんが私の手の中にある鍵を取り上げた


キーホルダーにある実家と自宅の2つある鍵に「どっち?」と聞かれて、指差した自宅の鍵で開けてくれた

「…………ありがとう」

小さい深呼吸して、ふぃにぽろっと落ちた涙をぬぐった

気持ちを落ち着かせなくては


「大丈夫っ、ちゃんと鍵してチェーンするから絶対朝まで開けないし、こんなの全然平気」


「倫子さん、大丈夫?」

そう言って、眉をひそめ若干汗ばむ私の顔を覗き込んできた


「だっ、大丈夫よっ本当に………」

私のその顔を見て七瀬くんは大きく息をついた

軽く伸ばした腕を私の頭の後ろに回し、引き寄せられた拍子にその胸の中に身体ごとすっぽりと押し込められる

「さっき、つまんないって言ってごめん。倫子さんが強がってるって分かってて言っただけだから……それに、今ここには誰もいない」

「今は強がらなくていいから」と、頭をポンポンと撫でてくれた

「…………っ」


私は上司なのに悔しいけど、七瀬くんの胸の中の人の温かさに少し気持ちが解放されるようだった

いつまでもこうしていたい…とさえ思えて、顔を埋めたまま少し彼のジャケットを掴んだ


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