七瀬クンとの恋愛事情
でも
こんな風に躊躇なく慰める事が出来る七瀬くんって、やっぱりそれなりに女の子の扱いに慣れてるんだろうな
そんな想像上の考えが、私の空っぽな胸を急にぎゅぅっとつぶしていく
「………倫子さん?」
「…………」
情けない私を、七瀬くんは慰めようと引き寄せて抱きしめてくれていたはずなのに、
いつの間に私のほうが
彼の上着を握ったまま、いつまでもその状態から離すせないでいた
豐田さんの張り紙に対してショックだったはずなんだけど、それよりも今は
同情だろうがこの優しさに、すがって頼ってみたいとさえ思う
顔を伏せて、片手は掴んでいた服から指を解けないままでいる私に七瀬くんの大きくて長い指が重なった
「……俺、さっきあわよくばって言いましたよね?」
「………え、あ………ぅん」
上から落ちてきたその低音な声に、
心臓がズキンっと跳ね上がる
「じゃあ、離した方がいいですよ」
「……………」
何が言いたいのかはわかってる
わかってるけど…………彼に引き寄せられる
トクトクと高鳴る胸が、耳から頭にまでどうしようもなく響いていく
今一人になりたくないし、一緒に居たいのも誰でもいいわけじゃない
「じゃあ、もう少し一緒にいてもいいですけど……」
そう言った七瀬くんに、伏せていた顔を上げると
「もしかしたらあの野郎より俺、怖い奴かもしれませんよ」
意味は解っているのに、そのまま
逆に七瀬くんの腕に押されるように玄関の扉の中へ入った
「あ、」
ガチャリ とドアの閉まる音と同時にその場ですっぽりと顔を七瀬くんの胸に押し当てられた