七瀬クンとの恋愛事情

「すまない、邪魔したな」


一言そう言って、ボスらしい笑顔を見せ、部屋にこの店イチ押しの冷酒を何本か入れて去っていった


パタンと締められる部屋の襖から暫くして、何人かがさり気なくチラリと私の方へ視線を向けた

が、その聞きたいことの「それ」を直接私に聞きに来る奴はいないだろう



「ハイボール、おかわり下さーーい」

小さな反抗ではないが、あの人が振舞った冷酒なんか飲むものかっ


私の隣の席から、平均年齢25歳のグループへ移動した七瀬くんを遠目に、頬杖をつきながら
ハイボールで残り少なくなった揚げ串を頬張る


やっぱり目立つよね、彼

黒髪に緩くウェーブをかけた、いまどきのお洒落な美容師みたいな髪型で、

はるか上から見下げられているのに、嫌味なく向けられるその笑顔は自然と人を惹きつける

なんて言ったっけ? あれ……
そう、『塩顔男子』だっけ、なんかそんな風に事務の子たちが話してたわ



『じゃぁ倫子さん飲み過ぎないで下さいね』
なんて、かわいいこと言ってくれるし

…………いやいやいや、何思い出してんだ私





「なぁ、そういえばあれって本当なのかなぁ」

少し遠巻きにコソコソとしているだろう話は、なんとなく何の事か想像できる
私がいる飲み会に偶然社長が顔を出したことで、振り返される腐れ切ったはずの噂話


『松原主任は昔、社長の愛人だった』なんて
いつまでもそんな噂がついて回る私の会社生活

まぁ、事実か嘘かなんてその当時だって本当の事を知ってるのは極わずかだけど


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